インパクト加重会計と「製造業の新たな挑戦」

製造業は、経済の中心的な役割を果たしているものの、その一方で環境への影響も大きい。この問題に対処するための新たなアプローチとして「インパクト加重会計」が注目されつつあるが今後、製造業との連携が大きく起因するのではないかと感じている。「インパクト加重会計」は、企業の財務情報に環境や社会への影響を数値化して反映する方法だ。これにより企業の真の価値をより正確に評価することが可能になる。

メリットとして、その企業活動が社会や環境にもたらす影響を理解でき、会計上の項目に別れた上で表現される。また業種や地域を問わず企業共通の比較が容易となり、投資家や経営者が財務的な側面だけではなく社会的な利益を考慮した上で意思決定ができることになる。

今後の課題としては、インパクト加重会計の標準化製造業で可視化された数値、センサーとの連携と共、にそれを検証する第三者や監査が必要になるだろう。

今後のPLM(製品ライフサイクル管理)市場と インパクト加重会計との連携は まさに~経営の見える化と未来予測(製品ライフサイクル予測)~であり、「製造業の新たな挑戦」ではなかろうかと感じている。


IMPACT-WEIGHTED FINANCIAL ACCOUNTS
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原著の著作権はハーバードビジネススクール 及び George Serafeim, T. Robert Zochowski, and Jen Downing にあります。
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お問い合わせ先:ImpactWeightedAccounts@hbs.edu


以下、今後の製造業・生産技術に深く関係すると推測し勉強のため、関連する内容を調査し概要・要点をしぼって今後内容をまとめる。※内容の詳細については理解と教育のためにまとめたものであり何ら保証を行うものではなく、法的な義務や責任を負うものではありません。あくまで話題の参考としてください。

インパクト加重会計の定義

1.損益計算書 や 貸借対照表などの財務諸表に記載される。

2. 「環境」 「製品」「従業員」と より広い社会に対する企業の正と負のインパクトを反映させる。

3.「財務の健全性」と「業績を補足」するために追加される。

上記により、投資家や経営者が、自社の利益や損失だけでなく企業が社会や環境に与える広範なインパクトに基づいて十分な情報を得た上で、意思決定を行うことができるような統合的な業績を示すことを目指している。

定義目的投資主体の意図インパクト測定・マネージメント
インパクト投資財務的リターンと社会的リターンの両立を目指す投資・特定の社会課題の解決あり必須
ESG投資従来の財務情報だけでなく、環境・社会・ガバナンス要素も考慮した投資・長期的なリスクの削減
・企業評価の最大化
なし行わないケースが多い

インパクト投資は「特定の社会課題解決」が目的で、ESG投資は「長期的なリスクの削減」と「企業価値の最大化」を目指している。

環境インパクト

    • 水の生産・輸送
    • 排水処理
  • 排出
    • カーボン・オフセット(GHG offsets)
      • 企業が排出量を補うためにカーボンクレジット、証明書を購入することによって行われる。すべてのボランタリーカーボンオフセットが含まれる。1つのカーボンクレジットは、森林再生や新しい再生可能エネルギー設備の建設などのプロジェクトを通じて節約された排出量1トンを表す。企業の環境負荷は、カーボンオフセットによって軽減される。このフィールドでは、オフセットによる排出量をCO2換算で把握し、数千メートルトン単位で記録している。
    • 温室効果ガス(GHG)
      • 温室効果ガス(GHG)とは、地球の大気中に熱を閉じ込める働きをするガスで、二酸化炭素(CO2)、メタン、一酸化二窒素などが含まれるものと定義される。この分野で定義される企業のGHG排出量の合計は、企業のスコープ1、スコープ2、スコープ3の排出量の合計と同じ。これらは、数千メートルトン単位で記録され、排出の地理的な場所によって分割される。
        スコープ1:自社の直接排出、スコープ2:自社の関節排出、スコープ3:他社の排出
        サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出算定に関する基本ガイドライン
    • 硫黄酸化物(SOx)
      • 硫黄酸化物(SOx)とは、企業が排出する二酸化硫黄のこと。企業が排出するSOxは、数千メートルトン単位で記録され、排出された地理的な場所によって分割される。為的な原因による二化硫黄の排出は、硫黄を含む燃料(石炭や重油など)の燃焼時や、硫黄を含む原料や添加物を使用する工業プロセスで発生する。二酸化硫黄は、二次エアロゾル粒子を生成する大気反応に寄与することで、気候変動に貢献している。エアロゾルは地球の冷却と温暖化の両方に寄与するが、正味の温室効果はマイナスであると考えらている。地球の大気を冷却する効果がある。二次的な大気反応による気候への影響を含めると、SOXの損害コストは全体としてマイナスになる。
    • 窒素酸化物(NOx)
      • 窒素酸化物は、燃料を高温で燃焼させたときにできる、有毒で反応性の高い気体の一種である。企業が排出する窒素酸化物(NO×)は、数千メートルトン単位で記録され、排出された地理的な場所によって分割される。NOx汚染は、自動車、トラック、さまざまな非道路走行車(建設機械、ボートなど)、および発電所、工業用ボイラー、セメントキルン、タービンなどの産業源によって排出される。窒素酸化物は、対流圏オゾンを生成する大気反応や、大気中のメタン濃度を下げる作用を通じて、気候変動に寄与している。これらの効果は地球の冷却と温暖化の両方に寄与するが、正味の温室効果はマイナス(地球大気の冷却効果)であると考えられている。二次的な大気反応による気候への影響を含めると、NO×の損害コストは全体としてマイナスになる。
    • 揮発性有機化合物(VOC)の排出
      • 揮発性有機化合物(VOC)とは、蒸気圧が高く、水溶性の低い有機化学物質である。オゾンの生成に寄与することで、間接的に気候変動の原因となっている。VOCの多くは、塗料、医薬品、冷媒の製造に使用・生産される人造化学物質であり、VOCは石油燃料、油圧作動油、シンナー、ドライクリーニング剤などの成分であることが多い。企業が排出するVOCは、数千メートルトン単位で記録され、排出された地理的な場所によって分割される。
  • EPS
    • 環境重点戦略システム(The Environmental Priority Strategy System)
      企業のさまざまな排出量をドル単位に換算するために、特性化パスウェイとマネタイズファクターを使用する。特性化パスウェイは、メタンをCO2換算するなど、排出量を標準的な単位に変換することができる。これにより CO2換算単位に金銭的価値を付与するマネタイズファクターが可能となり、総出量のマネタイズが実現する。チャルマース研究大学の BengtSteen名誉教授が開発したもので、データは一般に公開されている。
      • 1.EPSは製品やプロセス開発における設計オプションを選択するための体系的なアプローチである。
      • 2.基本的な考え方は、設計者が材料、プロセス、部品の通常のコストと同じように環境損害コストのリストを利用できるようにすることだ。
      • 3.EPSは、環境に対する配慮が他のいくつかの要素と同じくらい重要な日常の製品開発プロセスの要件を満たすために開発された。
      • 4.EPSは、排出物と自然資源の使用に対する影響評価(特性化と重み付け)方法を含み、任意のライフサイクル評価(LCA)で適用できる。
      • 5.EPSの影響評価方法の結果は、ELU(Environmental Load Units)として表現される排出物と自然資源の使用に対する損害コストになる。
      • 6.1つのELUは、1ユーロの環境損害コストに相当する外部性を表す。

製品インパクト リーチ

  • 数量
    • 製品の提供規模
      • 到達した個数の大きさをはかるもので、リーチの指標の例としては、販売量や顧客数などがある。
  • 期間
    • 製品の使用可能期間(特に耐久消費財)
      • 特に耐久消費財の場合、製品が使用できる期間を測定するもので、持続時間は平均寿命や期待寿命などの指標で見積もることができる。

製品インパクト 顧客による使用

  • アクセス
    • 価格設定を通じた製品の入手しやすさ
      • (業界標準価格 ー 企業価格)✕ 販売数
        例えば業界標準価格が100で企業価格が70、販売数量が500の場合、差の30と販売量の500を掛けて1,500となる。
    • 十分なサービスを受けられない人々への提供努力
      • SDGsへの適合 ✕ 十分なサービスを受けられない人々の数 ✕ 追加的な便益
  • 品質
    • 健康・安全
      • 事故にあった顧客数 ✕ 事故に関するコスト
        製品の健康と安全性は、その製品が期待される健康、安全、プライバシーの基準に適合しているかどうかを調べる。
        例えば製品のリコールによる食中毒に関連するコスト、製品に関連する論争やデータ漏えいなどが挙げられる。
    • 有効性
      • 業界平均の製品 ー 実際の製品のパフォーマンス
        製品パフォーマンスが明確に定義または測定できない場合、顧客満足度に基づく推定値で補うことができる。
    • 固有の必要性や良さを通じた製品の品質
      • 製品の基本的ニーズ ✕ 顧客数 ✕ 満たされない基本ニーズに関連するコスト
        製品の必要性とは、その製品が国民に何らかの基本的な必要性を提供しているかどうかを調べるもの。
  • 選択肢
    • 十分な情報と自由意志に基づく代替品の選択可能性
      • 選択を共用された顧客の数 ✕ 選択の自由がないために顧客が直面するコスト
        完全な情報と自由意志で代替製品を選択する能力を指す。独占的な行動をとる業界の製品を特定するには、ハーフィンダル・ハーシュマン指数(HHI)、4社集中率(CR4)などを用いる。

製品インパクト 使用時の環境負荷

  • 汚染と環境効率
    • 顧客使用における汚染物質と環境効率性
      • 顧客の使用によって実現されるすべての汚染物質と効率性を指す。製品の効率を把握する指標としては、使用時の炭素や粒子状物質の排出量、使用時に必要なエネルギーなどがある。

製品インパクト 使用後の処理

  • リサイクル性
    • 製品寿命後の予想リサイクル量
      • 製品寿命が尽きたときにリサイクルされる製品料の予測値を指す。指標の例としてはリサイクル可能な量や割合、回収可能な量などがある。

雇用インパクト 従業員

  • 賃金の質
    • 生活賃金、限界効用、公平性、支払われる賃金の質
      • 従業員の満足や士気につながる金額 = 給与総額 ー 限界効用逓減(ていげん)分 ー 男女賃金格差補正分
        ※エーザイ発表例
  • キャリアアップ
    • 収入増につながる社内流動性
  • 機会
    • 職種毎の従業員構成
      • 女性従業員の昇進機会の損失 = 昇格昇給の差 ✕ ( 機能別・職階別の女性従業員比率 ー 女性管理職比率)
        ※エーザイ発表例 ※営業、研究開発、生産、管理部門ごとに算出
  • 健康とウェルビーイング
    • 組織が従業員の健康とウェルビーイングに及ぼすインパクト
      • 怪我や事故、職場文化、職場の福利厚生プログラム、医療へのアクセス、有休休暇、家族にやさしい職場の福利厚生など

雇用インパクト 労働コミュニティ

  • ダイバーシティ
    • 所在地域と比較した従業員構成
  • ロケーション
    • 所在地域の雇用水準に基づく雇用の相対的インパクト

インパクトカテゴリー

資本財務製造知的人的社会自然
利益
給与
利息支払い
税金
取引先への支払い
顧客からの支払い
資本コスト
固定資産の変動
製品の顧客価値
サービスの顧客価値
投入資材の価値
知的資産の創出
雇用のウェルビーイング
研修・経験から生まれる従業員への価値
健康への影響
労働安全衛生自己
従業員による時間の投資
気候変動の進行/抑制
希少天然資源の利用可能性の増加/減少
貧困の拡大/抑制
人権侵害への加担/抑制

※1・・・自然とその恩恵を受ける人々 ※2・・・政府・地域コミュニティその他

ステークスホルダー自組織投資家従業員取引先顧客人々※1政府地域※2
利益
給与
利息支払い
税金
取引先への支払い
顧客からの支払い
資本コスト
固定資産の変動
製品の顧客価値
サービスの顧客価値
投入資材の価値
知的資産の創出
雇用のウェルビーイング
研修・経験から生まれる従業員への価値
健康への影響
労働安全衛生自己
従業員による時間の投資
気候変動の進行/抑制
希少天然資源の利用可能性の増加/減少
貧困の拡大/抑制
人権侵害への加担/抑制

インパクト加重会計イニシアチブ(IWAI)の声明

IWAIは、TheGlobal Steering Group for Impact Investment (GSG) とImpactManagement Project (IMP)による研究主導の共同作業であり、ジョージ・セラフェイム教授の指揮の下、ハーバード・ヒソネス・スクールのImpact-WeightedAccounts Projectで開発されている。最終的には、投資家や経営者の意思決定を後押しする形で、外部からのインパクトを透明性をもって把握できる財務諸表を作成することを目指している。また、投資家や企業がビジネス上の意思決定を行う際に採用され、広く利用される方法論の構築を目指している。IWAIは、基準、インパクト指標、インパクト評価の推定をすでに進めている組織の既存のネットワークを活用し、組織がどのようにしてインパクトの財務的表現を財務諸表に統合できるかという重要な問題に取り組むことに重点を置いている。より簡単に言えば、IWAIは、既存の使用可能なインパクトおよびアウトカムベースの測定基準を把握し、既存の使用可能な貨幣的評価係数を適用し、補完的な会計処理を特定することを意図している。IWAIは、研究、会計、応用に重点を置き、インパクトを測定し評価するための既存の主要なイニシアチブと意図的に連携することで、真の進歩を遂げたいと考えている。

  1. インパクトは測定し、比較することができる
  2. インパクトは、社会と環境をより良くするために経済を活用することを目的として、会計の枠組みの中で測定されるべきである
  3. 根本的な変化を生むためには、社会的インパクトの測定は規模の拡大が可能である必要がある
  4. 社会的インパクト測定の、規模の拡大が可能であるためには、実行可能で費用対効果が高いことが必要である

現実主義・・・すべてのインパクトを調査、分析し、業務に取り入れることはできないことを認識している。また、インパクト評価指標や貨幣価値評価係数の中には、完璧とは言い難いものがあることも認識している。しかし、私たちが長く使用してきた財務会計上の数字も同様だ。これらの数値は、判断、経営者の裁量、将来の予測に依存している。これらの数値は、根本的な経済的現実に対するノイズの多い推定値でもある。リース、年金、株式投資などのように、会計ルールを簡単に変更するだけで、貸借対照表が何兆ドルも変わり、組織の業績が根本的に異なる損益計算書が作成されることもよくあることだ。このような制限が私たちのこの先を制約することはない。私たちは、インパクト測定の精度と適用の拡張性の間にある本質的なトレードオフを十分に認識し、信頼性と拡張性のあるインパクト評価を行うことを目指している。